肺気腫・慢性閉塞性肺疾患(COPD)

肺気腫ってどんな病気?

肺気腫は、主にタバコによって肺が壊れることによって起こる病気です。現在は慢性閉塞性肺疾患(COPD)という少し複雑な名前で呼ばれています。原因としては、主にタバコやPM2.5などの有害物質を長期間吸入することによって、肺の正常な部分が壊れていくことで息を吐く力が低下します。息を吐く力が落ちることにより、息切れ・呼吸困難などの症状が起こります。
COPDは、息切れや咳などの呼吸の症状が起こるだけではなく、心臓病・不整脈・骨粗鬆症(こつそしょうしょう)・低栄養・動脈硬化・うつ病などの様々の病気を起こすことが分かっており、現在では全身の病気であると考えられています。そのため、呼吸の治療を行うと同時に、これらの病気の管理も並行して行うことが重要です。

肺気腫ってどんな病気?

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COPDの診断方法は?

COPDの診断の流れは、問診で疑い、肺機能検査・胸部レントゲン・CT検査で確定診断を行います。COPDの方の多くは、長年の喫煙習慣に加えて、咳や痰などの症状が長引く、ゆっくりと進行する息切れなどの症状があります。これらの症状により運動能力や生活の質が低下します。

COPDの方の、日常の症状の程度や治療による効果を見るために、以下のような質問表を用いることがあります。これはCAT(COPDアセスメントテスト)と呼ばれるもので、世界的に使用されているものです。8項目の質問からなり、その点数の合計を観察します。点数が高いほど症状が強いことを意味しており、定期的に点数をつけることで、症状の悪化を早期に捉えることができます。

CAT (COPDアセスメントテスト)

また息切れの強さを見るための質問として、mMRC(Modified Medical Research Council Dyspnea Scale)スケールというものがあります。5段階で息切れの程度を評価します。同じ肺機能でも息切れの感じ易さは、人によって異なり、また寿命とも関連しているため重要な指標になります。

息切れの程度:mMRCスケール

Grade 息切れの症状
0 激しい運動をした時だけ息切れがある
1 平坦な道を早足で歩く、あるいは緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある
2 息切れのために、同年代の人よりも平坦な道を歩くのが遅い、あるいは平坦な道を自分のペースで歩いているときに、息切れのために立ち止まることがある
3 平坦な道を約90cm、あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる
4 息切れがひどく家からも出られない、あるいは衣服の着替えをする時にも息切れがある

肺機能検査

肺機能検査肺機能検査は、息を吸ったり吐いたりして、肺の機能を調べる検査です。
主に評価する項目は以下の3点です。

  • 努力性肺活量:最大に吸うことができる空気の量で、肺の柔らかさを見る
  • 1秒量:一秒間に吐き出すことのできる空気の量で、気管支の閉塞の程度を見る
  • 1秒率:1秒量/努力性肺活量のことで、気管支の閉塞の有無を見る

COPDでは、気管支の閉塞の程度を見るので、1秒率や1秒量が重要となってきます。 具体的には、1秒率が70%以下となる場合に診断されます。喘息も息を吐く力が低下しますが、異なる点はCOPDでは可逆性試験でβ刺激薬の吸入後にあまり肺機能が改善しないところです。

COPDの重症度は、一秒量や症状の強さによって決まります。

  • 軽症:FEV1.0 ≧80%
  • 中等症:80%> %FEV1.0 ≧50%
  • 重症:50%> %FEV1.0 ≧30%
  • 最重症:30%> %FEV1.0

肺機能検査の見方肺気腫の方の肺機能検査

また肺機能検査の際の、息を吐くスピードをグラフにしたフローボリューカーブの形も診断の参考にします。COPDでは、初期にフローボリュームカーブが下に凹になるといった異常所見が見られます。

COPD患者の胸部CT

上記のCT画像では、わかりやすくするために肺がスカスカになっているところを赤色にぬってあります。この方では、喫煙の影響でかなり肺が悪くなっている部分が多いことがわかります。

COPDは合併症がたくさんある!

COPD患者に起こる様々な合併症

COPDは肺が悪くなるだけではなく、タバコによって全身に様々な病気を引き起こします。これらを合併症(がっぺいしょう)といい、肺の治療と並行して管理する必要があります。以下に代表的な合併症について説明いたします。

肺がん

COPDの患者さんに肺癌を合併する頻度は9〜20%前後と報告されています。喫煙は肺がんとCOPDの発症の両方に関連していますが、COPDの存在そのものが喫煙とは独立した肺癌の危険因子であることも分かっています。そのため、COPDの方には定期的に胸部レントゲン検査や胸部CT検査で肺がんの有無をチェックします。

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)骨粗鬆症はCOPDの方に高頻度に見られます。2年の観察期間でCOPD患者さんの骨折率は6.2%で、健常人より1.5倍に骨折リスクが高いことが示されています。イギリスのある研究報告によるとCOPD患者は、大腿骨近位部骨折が男性で1.34倍、女性で1.23倍とされています。骨粗鬆症は、骨折を招き、ひいては動けなくなって寝たきり・認知症になってしまうので積極的に治療を行っていきます。

低栄養

COPDの方では、呼吸に使うエネルギーが増加したり、胃腸の働きが低下し食事量が減ることで低栄養状態になりやすいことが知られています。また体重(BMI)が低い方は、余命が短いこともわかっています。低栄養状態は、筋肉の低下を招き、さらに息切れの増加を引き起こすといった悪循環に陥ります。栄養補助食品などを処方することでサポートを行う必要があります。

心血管疾患

心血管疾患COPDに合併する心血管疾患として、慢性心不全・心筋梗塞・心房細動などがあります。さらに、脳梗塞や脳出血などのリスクも高いと報告されています。COPD患者の約30%程度に慢性心不全を合併すると言われているので、COPDの方にはスクリーニングとして心電図検査や血液検査を行います。息切れの原因がCOPDではなく、心不全が原因となっている場合もあるので、時に利尿剤などで心不全治療を並行することがあります。

気管支喘息

COPDと喘息は区別が難しい場合があり、喘息とCOPDの両者の特徴を併せ持つオーバーラップ症候群(ACOS)という病気が報告されています。COPDの約20%程度に喘息を合併し、年齢を重ねるにつれてその頻度が増加すると言われています。COPDを合併したコントロール不良の喘息患者は、喘息非合併患者やコントロールされた喘息合併患者と比べて呼吸機能の低下が早く、生存率も悪いことが知られています。治療は、吸入ステロイドを併用して喘息・COPD両者の治療を並行して行います。

不安・抑うつ

不安・抑うつCOPD患者では、高率に不安や抑うつなどの精神症状を合併します。抑うつの併存率は、日本人では38%程度と報告されています。

糖尿病

COPDは糖尿病発症の危険因子であり、健常人より1.5倍の発症リスクがあります。日本人のCOPD患者さんを対象とした過去の研究でも、10-17%程度の糖尿病の合併が見られています。糖尿病をもつCOPDでは、入院するリスクの増加や入院期間の増加、死亡率の増加も報告されています。そのため血糖値やHbA1cなどのチェックを時々行う必要があります。

COPD急性増悪とは?

急性増悪は体力を低下させ、寿命を縮める

風邪や肺炎などの感染症をきっかけに急激に息切れや咳・痰などの症状が悪化することを「急性増悪」と言います。急性増悪は息切れの悪化を招き生活の質を低下させ、入院をしばしば余儀なくさせます。入院を繰り返すたびに、徐々に筋力が低下し栄養状態も悪化していきます。急性増悪を予防することはCOPDにおいて重要な目標で、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンや吸入ステロイドを使用します。急性増悪を起こしてしまった場合は、抗生物質や吸入薬、ステロイド剤で治療を行います。

COPDの治療はどのようなことをするのか?

COPDの治療は、第一に禁煙で、それらに加えて薬物治療・合併症の管理・予防・栄養療法・リハビリテーション・社会的援助・酸素療法・呼吸管理など多面的に行います。

COPDでは様々な角度から多面的な治療を行うことが重要です!

COPDの治療はどのようなことをするのか?

禁煙

COPDにおいて、禁煙は最も重要で効果のある治療方法です。健常者は、1秒量(息を吐く力)が1年間で20-30ml低下するのに対して、COPDでは50-100ml程度低下します。禁煙をすることで、この肺機能が低下するスピードを抑制することができます。自力で禁煙ができない方には、禁煙外来への受診をおすすめしています。

禁煙

薬物治療

主に気管支拡張薬の吸入を行います。気管支拡張薬を使用すると息を吐く力が改善するので、息切れや痰などの症状がよくなります。具体的には、抗コリン薬吸入(スピリーバ・シーブリ)や長期間作動型β刺激薬吸入(オンブレス・オーキシス)を使用します。また症状の強い方や呼吸障害が重度の方には、これらの配合剤(スピオルト・ウルティブロ・アノーロ)を使用します。さらに急性増悪をよく起こす方や気管支喘息の合併のある方には、吸入ステロイドの配合剤(テリルジー・ビレーズトリ・エナジア)を使用します。
その他にも、痰が多い方には痰が出しやすくなるような去痰剤(カルボシステイン・アンブロキソール)を使用することもあります。

吸入抗コリン薬

吸入抗コリン薬 β刺激薬配合剤吸入抗コリン薬

 

合併症管理

合併症についても積極的に検査し、必要があれば骨粗鬆症の予防薬投与、心不全治療、栄養療法などを並行して行います。特に骨粗鬆症の治療は重要で、すでに骨折の既往がある方、骨密度が70%以下の方は薬で治療をしたほうがよいと考えられています。

栄養療法

栄養療法COPDの患者さんは、より高エネルギー・高タンパクの食事を中心に摂取を心がけ、エネルギー効率の高い脂質も摂取するようお勧めします。より低栄養が進んだ方には、栄養補給剤も処方することがあります。栄養療法は、リハビリテーションを組み合わせて行うことでより効果的になります。

予防接種

COPDの方では、もともと肺機能が悪いので感染症を起こすと致命的となり、症状も大きく悪化することがわかっています。感染を予防するために、インフルエンザワクチン・新型コロナウイルスワクチン・肺炎球菌ワクチンの投与をお勧めしています。特に肺炎球菌ワクチンは、インフルエンザワクチンと両方接種した場合に、より高い効果が期待できます。具体的には、肺炎球菌による感染症の重症化を防ぎ、また肺炎による死亡が減少すると報告されています。

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呼吸リハビリテーション

COPDの患者さんでは息切れが進行すると、あまり動かなくなることで足の筋力が低下し、さらに動かなくなり息切れが進行するといった悪循環に陥ることが知られています。これらを防ぐため、積極的に呼吸リハビリテーションをお勧めしています。具体的には、呼吸方法の指導として口すぼめ呼吸や腹式呼吸に加え、自宅でできるような筋力訓練(足上げ、椅子に腰掛けて立ち上がることを繰り返す、上肢のダンベル運動)などを行います。最も簡単な方法は、ウォーキングで一日20分以上を目安に行うと良いでしょう。自宅にこもっていると、より病状や症状が悪化していきますので、積極的外に出て体を動かしましょう。

自宅でできる呼吸リハビリテーション呼吸リハビリテーション

在宅酸素療法・在宅人工呼吸管理

COPDの病状が進んでより重症となってくると、酸素を取り込む力が落ちて血中の酸素濃度が低い状態が続くようになります。このような方には、在宅酸素療法や在宅人工呼吸管理を行うことがあります。酸素を使用することで、余命が延長し、息切れが改善します。在宅酸素療法の適応となる方は以下のような基準となっています。患者さんの個々の状態に応じて、適切な酸素流量を選択します。

COPDの在宅酸素療法の適応基準

身体障害者認定の申請

最後に、COPDの方が申請できる社会的保障としては「身体障害者認定」があります。身体障害者認定には、以下のような基準があり、障害の程度(等級)により受けられる援助が異なります。
身体障害者認定3級以上では、基本的には医療費の全額免除を受けられます(地域によっては所得制限があります。名古屋市内は所得制限あり)。その他にも、税金の減額、鉄道料金・バスやタクシーなどの割引、公共料金の割引、携帯電話料金などの割引などの支援を受けることができます。

身体障害者認定

等級 呼吸機能障害 動脈血O2分圧 指数
1 呼吸器の機能の障害により自己の身辺の
日常生活活動が極度に制限されるもの
≦50 ≦20
3 呼吸器の機能の障害により家庭内での
日常生活活動が著しく制限されるもの
50-60 20-30
4 呼吸器の機能の障害により社会での
日常生活活動が著しく制限されるもの
60-70 30-40

身体障害者認定により得られるメリット

院長からのメッセージ

COPDは、息切れや咳・痰などを引き起こす呼吸器病であるだけではなく、心疾患・骨粗鬆症・低栄養などを合併する全身の病気です。吸入治療を漫然と行っているだけではなく、合併症の管理・呼吸リハビリテーションの指導・ワクチンの接種・栄養管理・社会保障の確認など行うことが多岐にわたります。当院では、呼吸器内科専門医がこのような多面的な治療を行い、COPDの患者さんの症状や寿命が少しでも良くなるように常に努力いたします。ご自身の症状がCOPDに当てはまり、お困りの際には一度ご相談ください。

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