会話中に咳が出てしまい、仕事や日常生活で困っている方はたくさんいらっしゃいます。特にコロナ時代に生きる現役世代には、「会議中に咳が出て困る」「商談中に咳が出て困る」など他の人の目も気になる症状です。
会話中に咳が出る方は、多くのケースで気管支がさまざまな刺激に過敏になっており、「気道過敏性が亢進」「咳の感受性が亢進」した状態になっていると考えられます。会話の他にも寒さや笑ったり、歌ったりといった刺激でも同じように咳は誘発されることがあります。
ここでは会話中に出る咳の原因やその特徴、対処方法について説明したいと思います。
会話中の咳の原因
会話中の咳の原因には、様々なものがあります。
主に以下のような原因があります。
- 気管支喘息・咳喘息
- アトピー咳嗽・喉頭アレルギー
- 感冒後咳嗽
- 逆流性食道炎
- 上気道咳嗽症候群(副鼻腔気管支症候群・後鼻漏)
- 百日咳
- 心因性咳嗽
- その他(肺結核・肺がん・肺気腫・COPD・間質性肺炎など)
それぞれの咳の特徴について説明します。
アトピー咳嗽・喉頭アレルギー
アトピー咳嗽(がいそう)や喉頭アレルギーでは、気道過敏性の亢進はありませんが、咳のセンサー(受容体)が敏感になっており、会話などで咳が誘発されます。またのどのイガイガした感じやかゆみを伴う場合があります。花粉症を合併している方多くいらっしゃいます。咳喘息とアトピー咳嗽はとても症状が似ていて、なかなか区別はできません。アトピー咳嗽では抗ヒスタミン薬が咳に対してとてもよく効くことが特徴です。一方で、気管支拡張薬はほとんど効果がありません。
感冒後咳嗽
感冒後咳嗽は、風邪をひいた後に熱やのどの痛みは良くなったけども、咳だけが長引くというものが典型的な経過です。多くの場合は、咳は自然経過で改善してきますが、中には喘息やアトピー咳嗽の方がいます。また咳をきっかけに胃酸の逆流が増えて、逆流性食道炎の症状が出てくる方もいます。3週間以上様子を見ても咳のみが続く場合は、一度病院を受診した方が良いでしょう。
逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃酸の逆流によって直接刺激され咳が出ます。また逆流性食道炎では気道過敏性も亢進していることがわかっており、これによっても咳が悪化します。実は逆流性食道炎では、会話や発声で咳が悪化する頻度が高いことが知られています。過去の研究では逆流性食道炎の患者さんの90%が、声を出した時に咳が悪化することを自覚されたと報告されています。これは、横隔膜が噴門の締まり具合に重要な役割をしており、会話中に声を出すことで横隔膜が動いて噴門が緩み逆流が悪化することが原因と言われています。
逆流性食道炎の患者さんの多くは、咳以外にも、胸焼けや胃酸が上がってきて酸っぱい味がする、などの消化器症状があります。咳やこれらの症状に対しては、胃薬(プロトンポンプ阻害薬)が効果があります。
上気道咳嗽症候群
副鼻腔気管支症候群や後鼻漏などの上気道咳嗽(がいそう)症候群では、鼻水がのどに垂れ込むことが刺激になって咳が誘発されます。咳は起床後に多く、繰り返す咳払いが特徴です。咳払いとは、のどや気道にたまった分泌物をわざと咳をすることで吐き出す行為のことです。鼻水は、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎が原因となって出ることが多いです。アレルギー性鼻炎が原因の場合、抗ヒスタミン薬などを使用すると鼻水とともに咳がよくなります。副鼻腔炎が原因の場合は、抗生物質などにより治療を行うと改善します。
百日咳
百日咳の咳は、一日中出ることが多く、発作性の咳(突然咳が出始めしばらく続く)が特徴です。咳の後に嘔吐やえづきを伴うことがあります。会話中に咳を自覚することも多く、約40%の方が会話で咳が悪化したと訴えます。基本的に乾いた咳のことが多く、乾燥や寒冷などの刺激でも咳は悪化します。百日咳は、発熱や咽頭痛などの風邪症状ではじまり、1-2 週間後に頑固な咳症状が出るようになります。早期に診断し、マクロライド系の抗生物質で治療を行えば、症状を軽くしたり、症状のある期間を短くすることができます。また適切な治療を受けた場合、1周間程度で他の人に感染させる危険性はなくなると言われています。
心因性咳嗽
心因性咳嗽(がいそう)とは、心理的なストレスが原因となって出る咳のことです。20歳以下の比較的若い方に多く、学校や家庭でストレスを抱えているケースが見られます。乾いた咳や犬が吠えたときのような咳が出ますが、何かに集中しているときや夜間は咳が出ません。多くは肺機能検査やレントゲン検査を行っても特に異常はありません。喘息などの病気を合併していることがあります。心因性咳嗽の場合は、薬での治療よりもカウンセリングやメンタル・精神科への紹介を行います。
症状によってどのような病気が考えられるか?
以上のように会話中に出る咳には原因よって特徴があります。
実際のケースでどのような病気が考えられるか、見てみましょう。
ケース1
風邪を引いた後、乾いた咳だけが残り2週間ぐらい続いている。夜間や朝に咳が強く、咳が強くて夜も眠れないことがある。
寒いところに行くと咳が強くなる。
風邪の後に咳が続く原因として多いのが感冒後咳嗽(咳嗽)です。中には、風邪をきっかけにして喘息や咳喘息の症状が悪化し、咳が長引く方がいますので必要に応じて肺機能検査などを行います。朝や夜に咳が強いのは喘息・咳喘息の特徴で、気管支が過敏になっているため寒暖差やタバコの煙などで咳が悪化します。一方で百日咳では、一日中咳が出て嘔吐を伴うような激しい咳が出ることがあります。
考えられる病気
- 感冒後咳嗽
- 喘息や咳喘息
- 百日咳
- アトピー咳嗽
ケース2
季節の変わり目に鼻水・くしゃみと共に咳が出るようになる。のどがイガイガした感じや違和感があり、会話中に咳が出てしまう。
のどのイガイガした感覚を伴う咳は、アトピー咳嗽や咽頭アレルギーの可能性があります。花粉症や他のアレルギー(アトピー性皮膚炎など)を合併していることが多く、咳の症状に対しても抗ヒスタミン薬が効果があります。鼻水が多く粘稠な場合、のどの奥に垂れ込んで刺激になって咳が出ている場合(後鼻漏)もあります。
考えられる病気
- アトピー咳嗽・咽頭アレルギー
- 咳喘息・気管支喘息
- 後鼻漏
ケース3
咳が3ヶ月以上続いており、最近では微熱や痰が出るようになった。咳は一日中出るため、食欲も落ちて体重も減っている気がする。
長期間続く咳に発熱・体重減少などの他の症状を伴う場合は、重大な疾患が隠れている場合があるため十分な検査を行った方が良いでしょう。また咳のみの場合でも3週間以上咳が続く場合は、一度病院を受診し検査をうけた方が良いでしょう。肺結核では、微熱や寝汗・体重減少を伴い、悪化すると血痰が出ます。肺がんでは、血痰や胸痛を伴うことがあり、胸に水がたまると息苦しさを感じます。結核や肺がんを疑った場合は、胸部レントゲン・CT検査を行います。
考えられる病気
- 肺結核
- 肺がん
院長からのメッセージ
会話中の咳には、さまざまな原因が考えられます。気管支や肺の問題だけではなく、のど・鼻や食道が原因となってる場合もあります。重要なのが、咳が複数の原因で起こっていることが多いということです。
気管支喘息に逆流性食道炎が同時に起きていたり、喉頭アレルギーに後鼻漏が起きて咳が悪化することがよくあります。時にはこれらの病気を同時に治療することが重要となります。会話中の咳でお困りの場合は、気軽に当院へご相談ください。