花粉症は、植物の花粉が原因で生じる季節性アレルギー性疾患の総称です。くしゃみや鼻水・鼻づまりなどの鼻炎症状や目のかゆみなどの結膜炎症状があります。ここでは主にアレルギー性鼻炎について説明いたします。
目次
花粉の飛散時期と特徴
スギ(ヒノキ)、カバノキ科(ハンノキ)、イネ科、ブタクサ、ヨモギが日本における5大重要花粉です。原因花粉が、スギ・ヒノキのみである患者が多いですが、イネ科などの雑草(カモガヤ・ハルガヤ・オオアワガエリ)やカバノキ科などの樹木花粉が原因となっている場合もあります。
1月から4月頃は主にスギの花粉が飛散します。イネ科は4月から10月にかけて、ブタクサなどの雑草は9月ごろに花粉が飛散します。
スギ花粉は、1日の中で昼と夕ごろに花粉の飛ぶ量がピークに達します。昼は仕事で屋内にいるため症状が落ち着いていても、帰宅時に症状が悪化することがよく見られます。
カバノキ科であるハンノキは1月〜4月に飛散し、花粉症症状だけではなく、咳やのどの違和感・かゆみを起こすことが知られています。また口腔アレルギー症状を起こすことがよくあり、りんごやももなどを食べると15分程度で口の中にかゆみやイガイガ感が出ることがあります。
花粉を回避する方法
花粉は屋外アレルゲンなので外では回避が難しいため、以下のような回避方法でポイント押さえておくことが重要です。帰宅時には、衣服や髪をよく払って自宅に入室し、掃除は特に窓際を中心にきれいにしましょう。また普段使いのメガネでも着用することで、メガネなしの状態に比べれば目に入る花粉の数を60〜70%ほどカットすることができると言われています。
イネ科やキク科などの草本花粉は花粉の飛散距離(数十m)がスギ花粉より長くないので、原因花粉の群生地(土手沿いや雑草がたくさん生えている場所)に近寄らないことが大切となってきます。
検査
当院では、希望する患者様には血液検査でアレルギーの原因物質となるアレルゲンを調べています。
検査方法はいくつかあり、8項目のみですが当日結果の出る「イムノキャップラピッドアレルゲン8」と30項目以上を同時に調べることのできる「VIEW-39」、単項目検査などがあります。
当院で行なっている特異的IgE抗体検査には以下のようなものがあります。
- イムノキャップアレルゲン8
- 多項目同時測定(VIEW-39)
- 単項目検査
検査方法 | イムノキャップ ラピッドアレルゲン8 |
VIEW-39 | 単項目検査 |
---|---|---|---|
検査結果 | 即日(20分) | 数日~1週間 | 数日~1週間 |
測定項目数 | 8 | 39 | 希望に応じて |
採血量 | 0.1ml | 5-10ml | 5-10ml(項目数による) |
測定項目数 | スギ カモガヤ ブタクサ ヨモギ シラカンバ(属) ヤケヒョウヒダニ イヌ皮屑 ネコ皮屑 |
39項目 |
別項目参照 (3-6項目程度実施する) |
料金 | 約3000円(3割負担) | 約5000円(3割負担) | 1項目あたり約330円 (3割負担) |
イムノキャップラピッドアレルゲン8
この検査のメリットは、少量の血液(0.1ml)で行えること、結果が20分程度ですぐにわかること、などがあります。血液の量が非常に少なくて済むので、小さなお子様でも安全に行えます。対象となるアレルゲンは8項目のみで、スギ・ブタクサ・カモガヤ・ヨモギ・シラカンバの花粉系とイヌ・ネコ・ヤケヒョウダニのハウスダスト系になります。
多項目同時測定(VIEW-39)
この検査は、39項目のアレルゲンを同時に調べることができます。花粉やダニなどの吸入アレルゲンや卵や小麦などの食物アレルゲン、カビやラテックスなどを調べることができます。原因物質が多数あり、アレルゲンを一度にたくさん調べたい方に向いています。血液量は5-10ml程度必要とし、検査結果は数日から1週間程度かかります。
結果はアレルギーの強さにより7つのクラスに分類されます。
VIEW39 結果の見方
判定 | クラス | 測定値 | 解説 |
---|---|---|---|
陰性 | 0 | 0-1.39 | 血液中に特異的IgE抗体が存在していない、もしくは微量 |
偽陽性 | 1 | 1.40-2.77 | 微量ながら、特異的IgE抗体が存在している可能性がある |
陽性 | 2 | 2.78-13.4 | 血液中にIgE抗体が存在 クラスが上がるにつれて、アレルギーを発症する可能性が高くなったり、症状が重くなったりする場合があります。 |
3 | 13.5-58.0 | ||
4 | 58.1-119 | ||
5 | 120-159 | ||
6 | 160- |
クラス2~6がアレルゲンに陽性と判定
単項目測定(CAP法)
個別のアレルゲンについては、以下の項目について検査が可能です。症状からあらかじめ疑わしいと考えられるアレルゲンについて検査します。
治療
当院で行う花粉症の治療には大きく分けて二つあり、アレルギー物質を抑える薬物治療と、根本からアレルギー体質を変えるアレルゲン免疫療法があります。
薬物治療には…
- 抗ヒスタミン薬
- 抗ロイコトリエン拮抗薬
- 点鼻薬(ステロイド)
- 化学伝達物質抑制薬
- 生物学的製剤(ゾレア)
などがあります。それぞれに特徴がありますので、症状の強さや副作用を見ながら患者様に合わせた治療を選択いたします。
花粉症の2つのタイプ
くしゃみ・鼻漏(びろう)型
抗ヒスタミン薬が効果があります。たくさんの種類が開発されており、アレジオンやアレグラ、ザイザル、クラリチンなどが代表的な薬です。それぞれ効果の強さや副作用(主に眠気)などに違いがあり、症状に合わせて薬を選択します。他にはステロイド点鼻薬も効果があります。
鼻閉型
抗ヒスタミン薬が効きにくいことが多く、抗ロイコトリエン拮抗薬が効果があります。他にも血管収縮薬と抗ヒスタミン薬の合剤であるディレグラを使用することがあります。
抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は花粉症治療で最も一般的に処方される薬です。効果も強いものからマイルドなものまであります。副作用として眠気や口の渇きがあり、一部の薬は服用後の自動車運転が禁止されています。副作用の出やすさは個人によって違うので、薬の効果とも合わせて患者様と相談の上どの薬を使用するかを決めます。
抗ロイコトリエン拮抗薬
即効性は抗ヒスタミン薬には劣りますが、鼻づまり(鼻閉)に対して特に効果があります。内服開始後1週間までに効果が出てきて、毎日服用することで効果が上がります。眠気の副作用もかなり少ないことが特徴です。モンテルカストとブランルカストの2種類の薬があります。
化学伝達物質抑制薬
化学伝達物質抑制薬であるラマトロバンを、抗ヒスタミン薬などと併用します。鼻づまり(鼻閉)に対して効果があります。炎症を引き起こすトロンボキサンA2やプロスタグランジンE2を抑えることにより効果を発揮します。
点鼻薬
点鼻薬は、主にステロイドが含まれたものを使用します。鼻に直接吹きかけるので副作用が少ないことが特徴です。液状のものとパウダー状のものがあるので、患者様のご希望の合わせて処方いたします。
ステロイド点鼻薬一覧
製品名 | 剤型 | 用法 | 1ヶ月分の薬代 (自己負担3割の場合) |
---|---|---|---|
アラミスト | 液状 | 1日1回2噴霧ずつ | 約1000円 |
フルナーゼ | 液状 | 1日2回1噴霧ずつ | 約350円(後発品) |
ナゾネックス | 液状 | 1日1回2噴霧ずつ | 約330円(後発品) |
エリザス | パウダー | 1日1回1噴霧ずつ | 約800円 |
ベクロメタゾン 鼻用パウダー |
パウダー | 1日4回1噴霧ずつ | 約310円 |
生物学的製剤(ゾレア)
花粉症に対する治療を十分に行っても症状が残る重症の方には、ゾレアの投与を検討します。ゾレアは皮下注射の薬で、2−4週間毎に投与を行います。費用が3割負担でも約5000〜70000円(体重や投与間隔による)と比較的高額な薬になりますが、有効性の高い薬です。
ゾレアによる治療を受けるための条件
- 重症または最重症の季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)で前スギ花粉シーズンでも重症な症状があった。
- スギ花粉のアレルギー検査(血液検査)の結果が陽性だった。(スギ花粉抗原に対する血清特異的IgE抗体がクラス3以上)
- 季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)の既存治療を1週間以上行い、効果不十分であった。
- 12歳以上で、血清中総IgE濃度が30〜1,500IU/mL、体重が20〜150kgの範囲にある。
点眼薬
当院で処方する点眼薬
薬品名 | 回数 | 特徴 | 1ヶ月の薬代 (3割負担) |
---|---|---|---|
エピナスチン塩酸塩点眼薬0.05% | 1日4回 | コンタクトレンズ 装着時も可 |
約500円 |
アレジオンLX点眼薬0.1% | 1日2回 | コンタクトレンズ 装着時も可 |
約1000円 |
オロパタジン点眼薬0.1% | 1日4回 | 約200円 | |
リボスチン点眼薬0.025% | 1日4回 | 約320円 | |
フルメトロン点眼薬0.02% | 1日2-4回 | ステロイド点眼薬 | 約150円 |
上記以外にも処方可能ですので、ご相談ください。
当院では、上記のような点眼薬を処方します。コンタクトレンズを装着されている方は、装着前後は外して点眼していただく必要があります。これは、点眼薬に含まれる「ベンザルコニウム」という成分(防腐剤)がコンタクトレンズに吸着されやすく、ベンザルコニウムが角膜に接触し続けていると角膜に悪影響を及ぼすことが報告されているからです。点眼時にはコンタクトレンズを外し、その後10分の間隔を空けて装着し直すようにしてください。エピナスチン点眼薬やアレジオン点眼薬では、ベンザルコニウムが含まれていないため、コンタクトレンズを装着したまま点眼可能です。
舌下免疫療法
当院では、舌下免疫療法を行うことができます。花粉症に対する治療の中でも、長期的な効果や治癒を期待できる唯一の治療方法が舌下免疫療法です。
アレルギーの原因である「アレルゲン」を少量から投与することで、体を慣らし体質を帰ることでアレルギー症状を和らげる治療法です。スギ花粉、もしくはダニにアレルギーのあるアレルギー性鼻炎の方に適応があります。
5才以上の方であれば治療を受けることが可能で、概ね80%の方に効果があります。